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神戸地方裁判所 平成10年(ワ)126号 判決

原告

月田美知代

被告

加藤尚樹

ほか一名

主文

一  被告加藤尚樹は、原告に対し、金一〇九六万一六二三円及びこれに対する平成八年一二月四日から支払済みまで年五分の割合による金員(ただし、うち金二四七万七八九三円及びこれに対する平成八年一二月四日から支払済みまで年五分の割合による金員については、被告フットワークキャブ神戸株式会社と連帯して)を支払え。

二  被告フットワークキャブ神戸株式会社は、原告に対し、被告加藤尚樹と連帯して、金二四七万七八九三円及びこれに対する平成八年一二月四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告の被告フットワークキャブ神戸株式会社に対するその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用は、原告に生じた分を八分し、その三を原告の負担とし、その四を被告加藤尚樹の負担とし、その余を被告フットワークキャブ神戸株式会社の負担とし、被告フットワークキャブ神戸株式会社に生じた分を四分し、その三を原告の負担とし、その余を同被告の負担とする。

五  この判決は、第一項及び第二項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告らは、原告に対し、連帯して金一〇九六万一六二三円及びこれに対する平成八年一二月四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  本件は、後記交通事故(以下「本件事故」という。)により傷害を負った原告が、被告加藤尚樹(以下「被告加藤」という。)に対しては民法七〇九条に基づき、被告フットワークキャブ神戸株式会社(以下「被告会社」という。)に対しては自動車損害賠償保障法三条に基づき、損害賠償を求める事案である。

なお、付帯請求は、本件事故の発生した日の翌日から支払済みまで、民法所定の年五分の割合による遅延損害金であり、被告らの債務は、不真正連帯債務である。

また、被告加藤は、適式の呼出しを受けながら本件口頭弁論期日に出頭せず、答弁書その他の準備書面を提出しない。

二  争いのない事実等

1  交通事故の発生

(一) 発生日時

平成八年一二月三日午後一一時五五分ころ

(二) 発生場所

神戸市中央区吾妻通四丁目一番六号先 信号機により交通整理の行われている交差点(以下「本件交差点」という。)

(三) 争いのない範囲の事故態様

被告加藤は、普通乗用自動車(神戸五五を二四一八。以下「被告車両」という。)を運転し、本件交差点を西から東へ直進しようとしていたところ、運転を誤って、本件交差点東側の中央分離帯に、被告車両の前面を衝突させた。

なお、原告は、被告車両の同乗者である。

2  被告車両の所有関係

被告会社は、被告車両の所有者である。

三  争点

原告と被告会社との間における本件の主要な争点は次のとおりである。

1  被告会社が被告車両の運行供用者といえるか。

2  過失相殺の要否、程度

3  原告に生じた損害額

四  争点1(運行供用者性)に関する当事者の主張

1  原告

被告車両は、被告会社が所有するタクシーであり、被告加藤は被告会社に雇用され、タクシーの運転手として勤務している者であった。

したがって、被告会社が被告車両の運行供用者であったことは明らかである。

なお、原告と被告加藤とは内縁の夫婦関係ではない。また、本件事故時、被告加藤は被告会社の勤務時間内であった。

2  被告会社

原告と被告加藤とは、内縁の夫婦関係にある。

また、被告会社における被告加藤の勤務は、午後八時までである。

そして、被告会社においては、私用でタクシーを使うことを固く禁じていたところ、被告加藤は、これに反して、勤務時間後に、助手席に原告を乗せ、メーターも倒さずに被告車両を運転し、本件事故を起こしたものである。

したがって、被告車両に対し、被告会社には運行支配も運行利益もないから、被告会社は、被告車両の運行供用者ではない。

五  争点2(過失相殺)に関する当事者の主張

1  被告会社

本件事故の直前、原告と被告加藤とはともに飲酒し、その上で原告は被告車両に同乗した。

また、争点1に関して主張したとおり、本件事故時、被告加藤は、助手席に原告を乗せ、メーターも倒さずに被告車両を運転していた。そして、本件事故が起こったのは、被告加藤が原告との話に夢中になり、飲酒運転であったこともあって、前方への注意が散漫になったためである。

したがって、本件事故に関しては原告にも落ち度があり、原告と被告加藤とが内縁関係であったことにも照らすと、相応の過失相殺がされるべきである。

2  原告

本件事故の直前、原告と被告加藤とがともに飲酒したことは認めるが、その量はわずかである。

原告が被告車両に同乗したのは、被告加藤から、当日の売上金を被告会社に納めにいくついでに、原告を自宅まで送ると言われたからであり、原告は、当初これを断わっていた。しかし、被告加藤が余りにもしつこく誘うので、原告は、通行人の目を気にして、やむなく被告車両に同乗したものである。

また、車内では、窓の外を見ていた原告に対して被告加藤が一方的に話しかけており、原告には本件事故に対する責任はない。原告と被告加藤とが内縁関係になかったことは、争点1に関して主張するとおりである。

したがって、原告には、過失相殺の対象となるべき落ち度はまったくない。

六  口頭弁論の終結の日

本件の口頭弁論の終結の日は平成一〇年一一月一二日である。

第三争点に対する判断

一  争点1(運行供用者性)

1  被告車両は、被告会社が所有するタクシーであること、被告加藤は被告会社に雇用され、タクシーの運転手として勤務している者であったことは、原告と被告会社との間で争いがない。

2  乙第一ないし第四号証、第五号証の一六ないし一八、証人鹿原國廣の証言、原告本人尋問の結果によると、次の事実を認めることができる。

(一) 被告会社では、タクシーの運転手の勤務形態が三種類あり、本件事故当時の被告加藤の勤務時間は、日勤者として、午前一〇時から午後八時一〇分まで、うち休憩時間は三時間、ただし、月間二乗務は終業時間を午後七時四〇分とする旨定められていた。

(二) しかし、日勤者の乗車する車両は定まっていたため、被告会社では、右勤務時間は必ずしも厳格には守られていなかった。

被告加藤においても、被告車両が同被告の専用車両であったため、このことは同様であった。そして、本件事故当日においても、被告加藤は、午前八時三〇分に被告車両を被告会社から出庫し、午前九時ころにはこの日の最初の乗客を乗せている。

(三) 本件事故当日、被告加藤は、午後八時ころ、原告宅を訪れ、被告車両に原告を乗せて、三宮に向かった。

そして、午後九時前から本件事故直前まで、原告と被告加藤とは、ともに飲食をした。

(四) その後、被告加藤は、原告を、被告車両で自宅まで送り届ける旨を告げた。

原告は、被告加藤が酒を飲んでいたことからこれをいったんは断わったが、重ねて被告加藤が誘ったので、最終的にこれに応じ、被告車両の助手席に乗り込んだ。

なお、この際、被告加藤は、原告に対し、被告会社にその日の売上金を納めに行く旨を告げたが、本件事故の発生場所に照らすと、被告加藤が被告会社に立ち寄るつもりがあったのか否かは、必ずしも明らかではない。

3  ところで、車両の所有者は、特段の事由のない限り、自動車損害賠償保障法三条にいう「自己のために自動車を運行の用に供する者」に該当することはいうまでもない。

そして、右特段の事由があるというためには、二時間の約束で自動車を借りた者が一か月後に交通事故をおこした(最高裁平成六年(オ)第一八六〇号同九年一一月二七日第一小法廷判決・判例時報一六二六号六五頁参照)など、運行利益、運行支配が、完全に所有者から失われていることを要するものであって、本件のように、勤務時間に近接した時間に、タクシー会社の従業員が正規の勤務に引き続いてタクシーを運転していた場合には、車両の所有者になお、運行利益、運行支配があると解するのが相当である。

4  したがって、被告会社は、本件事故当時、被告車両の運行供用者であったということができるから、自動車損害賠償保障法三条本文により、原告に生じた損害を賠償する責任がある。

二  争点2(過失相殺)

1  乙第五号証の一〇によると、本件事故が発生した直後に行われた飲酒検知により、被告加藤の呼気一リットル中に〇・三ミリグラムのアルコールが検知されたことが認められる。

また、争点1に対する判断で判示したとおり、午後九時前から本件事故直前まで、原告と被告加藤とは、ともに飲食をしていた。

これらによると、原告は、被告加藤が飲酒をした上で被告車両を運転しようとするのを認識しながら、あえて被告車両に同乗したというべきであって、被告会社との関係では、過失相殺の法理を類推適用して原告に生じた損害の一部を控除するのが、損害の公平な負担という不法行為法の原則に合致するというべきである。

原告は、被告加藤が余りにもしつこく誘うので、通行人の目を気にしてやむなく被告車両に同乗した旨を主張するが、このことは、原告の損害の減額の割合を考慮する際の一つの事情とはなるが(ただし、それほど重要な事情であるとまでは考えられない。)、本件事故に対する原告の責任を否定する事情とはなりえない。

2  本件事故時、原告が被告車両の助手席に乗っていたこと、被告加藤はメーターも倒さずに被告車両を運転していたことは、原告と被告会社との間では争いがない(少なくとも、原告は明らかに争わない。)。しかし、損害の公平な負担という見地から見た場合、これらのことによって、被告会社が負担すべき原告の損害額を減少させるのは相当ではない。

また、被告会社は、本件事故が起こったのは、被告加藤が原告との話に夢中になったからである旨を主張する。しかし、乙第五号証の一四、一六、一七、原告本人尋問の結果によると、本件事故直前、被告加藤が原告に一方的に話しかけている状況であったことが認められ、原告の言動が本件事故の一因になったとまでは認められない。

さらに、被告会社は、原告と被告加藤とは、本件事故当時、内縁関係にあった旨を主張する。しかし、これを認めるに足りる客観的な証拠はなく、むしろ、原告本人尋問の結果によると、原告と被告加藤とは、平成五年に子をなす関係にあったが、本件事故当時には、男女の関係にはなく、ましてや、内縁関係と評価しうるような関係ではなかったことが認められる。

3  したがって、被告加藤が飲酒をした上で被告車両を運転しようとするのを認識しながら、あえて被告車両に同乗したという点でのみ、被告会社との関係で過失相殺の法理を類推適用して原告に生じた損害の一部を控除するのが相当である。

そして、右見地から本件に現れた一切の事情を考慮して右控除の割合を斟酌すると、被告会社との関係では、原告の損害の二〇パーセントを控除するのが相当である。

なお、前記のとおり、被告加藤は、本件口頭弁論期日に出頭せず、答弁書その他の準備書面を提出しないから、過失相殺の法理を類推適用する基礎となるべき事実を何ら主張していない。

したがって、被告加藤との関係では、原告の損害を控除せず、被告加藤にその全額の支払を命じることとする。

三  争点3(原告に生じた損害額)・被告会社関係

争点3に関し、原告は、別表の請求欄記載のとおり主張する。

これに対し、当裁判所は、以下述べるとおり、同表の認容欄記載の金額を、被告会社の関係で原告の損害として認める。

1  原告の傷害等

まず、原告の損害の基礎となるべき原告の傷害の部位、程度、入通院期間、その間の治療の経緯、後遺障害の内容、程度等について検討する。

甲第三号証の一ないし三、第四号証の一、二、第五号証、第六号証、原告本人尋問の結果によると、次の事実を認めることができる。

(一) 本件事故後、原告は、救急車で吉田アーデント病院に搬入され、同病院に、平成八年一二月四日から同月二四日まで入院した。

同病院における原告の診断傷病名は、右足関節内果骨折、前頭部挫創、左顔面打撲、歯牙破折、右大腿挫創、頭部外傷Ⅱ型、左肩打撲等であり、骨折に関しては、入院中、保存的ギプス治療が行われた。

(二) ついで、原告は、財団法人近藤記念厚生会神戸海岸病院(以下「神戸海岸病院」という。)に転院し、平成八年一二月二七日に同病院に通院した後、同月二八日から平成九年二月六日まで、同病院に入院した。

同病院における原告の診断傷病名は、右脛骨内果骨折であり、平成九年二月一日までは、保存的ギプス治療が行われた。

(三) 原告は、平成九年二月一三日、吉田アーデント病院に通院した。

また、同月七日から同年六月一六日まで、神戸海岸病院に通院した(平成八年一二月二七日の通院も含め、同病院への実通院日数は三六日。)。

(四) 神戸海岸病院の医師は、原告の傷害が、平成九年六月一六日に症状固定した旨の自動車損害賠償責任保険後遺障害診断書を発行した。

これによると、右時点における原告の自覚症状は、長距離歩行で右足関節部痛が増強する、正座、しゃがみ込み、走行等が疼痛のため不能、右足関節全体に時々しびれ感があるというものである。また、他覚所見としては、レントゲン写真上、骨癒合は完成しており、関節症変化は認めない、右足関節から足部には明らかな知覚障害は認めない、右足関節部の腫脹は認めないが、自発痛及び内果部分に叩打痛を軽度認める、筋力低下は認めないが、右足関節に軽度の背屈制限を認めるというものである。さらに、後遺障害の今後の見通しにつき、足関節の拘縮に関しては使用により徐々に緩解する可能性があるとされている。

(五) 自動車損害賠償責任保険手続において、原告の右後遺障害は、自動車損害賠償保障法施行令別表一二級に該当するものと認定され、傷害保険金一二〇万円と後遺傷害保険金二二四万円が、原告に支払われた。

2  損害

(一) 治療費

甲第三号証の二、三、第四号証の二によると、吉田アーデント病院の治療費が金一七万〇四一三円であったこと、神戸海岸病院の治療費が金二〇万三四一〇円であったことが認められる。

原告は、このほかに、吉田アーデント病院の治療費が金四七四〇円かかった旨主張し、これに沿う証拠として甲第一〇号証の三を提出する。しかし、甲第一〇号証の三は、その内容から、平成九年二月一三日に原告が同病院に通院した際の治療費であると認められるところ、甲第三号証の二には、通院日数が一日、再診一回、外来管理一回との記載があるから、右認定の金一七万〇四一三円の中に甲第一〇号証の三の治療費が含まれていることは明らかである。したがって、右金四七四〇円については、二重請求に当たり、認めることができない。

また、甲第四号証の二によると、右認定の神戸海岸病院の治療費金二〇万三四一〇円は、平成九年二月二八日までの分であることが認められる。そして、前記のとおり、原告は、同年六月一六日まで同病院に通院したことが認められるが、原告は、同病院の治療費のうち同年三月一日以降の分に相当する金額を主張せず、これを認めるに足りる証拠もない。

結局、治療費は、金三七万三八二三円が認められる。

(二) 文書費

甲第一〇号証の四、五によると、文書費金一万〇三〇〇円を認めることができる。

(三) 通院交通費

甲第一一号証、原告本人尋問の結果によると、原告は、神戸海岸病院に通院するには、ポートライナーを利用していたこと、右交通費として一日当たり金四八〇円を要することが認められる。

そして、前記認定のとおり、同病院への実通院日数は三六日であるから、通院交通費は、次の計算式により、金一万七二八〇円である。

計算式 480×36=17,280

(四) 通院雑費

原告は、入院雑費と同様に、実通院日数一日当たり金五〇〇円の割合による通院雑費を請求する旨主張し、具体的に特に支出をしたとの主張をするものではない旨述べる。

しかし、入院に際して、入院一日当たり金一三〇〇円の割合による入院雑費を認めるのが相当であると考えられるものの、通院に際し、何らかの雑費が必要になるとは考えられず、右のように、原告も具体的な主張をしない。

したがって、通院雑費はまったく認められない。

(五) 休業損害

乙第五号証の一四、原告本人尋問の結果によると、原告は、本件事故の前の平成八年一〇月中ころまで、ブーケというスナックに勤務し、一か月に金二五、六万円の収入を得ていたこと、原告は、本件事故の発生した日の翌日である平成八年一二月四日から症状固定日である平成九年六月一六日まで(一九五日間)は、本件事故による傷害のため休業のやむなきに至ったことが認められる。

これらによると、原告の休業損害を算定するに当たっては、本件事故がなければ、原告は、右休業期間中、三〇日間で金二五万円の収入を得ていた蓋然性が高いものと認めることができる。

したがって、休業損害は、次の計算式により、金一六二万五〇〇〇円となる。

計算式 250,000÷30×195=1,625,000

(六) 後遺障害による逸失利益

前記認定の原告の後遺障害の内容、程度によると、原告の後遺障害による逸失利益を算定するに当たっては、三〇日間につき金二五万円の収入をその基礎として、原告は、今後五年間にわたって、労働能力の一四パーセントを喪失するものとし、中間利息の控除につき新ホフマン方式によるのが相当である(五年間の新ホフマン係数は四・三六四三)。

なお、労働能力の喪失期間を五年間に限ったのは、右認定の原告の職業、症状固定時点の自覚症状、他覚所見等を総合的に考慮したことによる。

したがって、原告の後遺障害による逸失利益は、次の計算式により、金一八五万八四六四円である。

計算式 250,000÷30×365×0.14×4.3643=1,858,464

(七) 慰謝料

原告と被告会社との間で争いのない本件事故の態様、前記認定の原告の傷害の部位、程度、入通院期間、この間の治療の経緯、後遺障害の内容、程度、その他本件に現れた一切の事情を考慮すると、本件事故により原告に生じた精神的損害を慰謝するには、金三二〇万円をもってするのが相当である(うち後遺障害に対応する慰謝料は金二〇〇万円である。)。

(八) 小計

(一)ないし(七)の合計は金七〇八万四八六七円である。

3  過失相殺

争点1に対する判断で判示したとおり、本件においては、被告会社との関係で過失相殺の法理を類推適用して原告に生じた損害の二〇パーセントを控除するのが相当である。

したがって、右控除後の金額は、次の計算式により、金五六六万七八九三円(円未満切捨て。)となる。

計算式 7,084,867×(1-0.2)=5,667,893

4  損害の填補

原告の損害のうち金三四四万円がすでに填補されていることは原告と被告会社との間で争いがない。

したがって、過失相殺類推適用後の金額から右金額を控除すると、金二二二万七八九三円となる。

5  弁護士費用

原告が本訴訟遂行のために弁護士を依頼したことは当裁判所に顕著であり、右認容額、本件事案の内容、訴訟の審理経過等一切の事情を勘案すると、被告会社が負担すべき弁護士費用を金二五万円とするのが相当である。

四  争点3(原告に生じた損害額)・被告加藤関係

原告の主張する損害のうち、慰謝料及び弁護士費用を除く損害については、現実に具体的な金額を支出した事実(積極損害)、本件事故がなければ得ることができたであろう具体的な金額を現実には得ることができなかったという事実(消極損害)が要件事実であり、被告加藤はこれらを認めたものとみなされるから、原告の請求する損害額は相当である。

これに対し、原告の主張する損害のうち、慰謝料については、原告が精神的損害を受けたことを基礎づける事実が要件事実であり、弁論主義の適用を受けるものの、その精神的損害を慰謝するに足りる具体的金額については、法的評価の問題として、裁判所の裁量によって定められると解するのが相当である(ただし、民事訴訟法二四六条により、原告の請求する金額を超える金額を認定することはできない。)。

また、原告の主張する損害のうち、弁護士費用については、訴訟遂行のために弁護士を依頼した事実が要件事実であり、弁論主義の適用を受けるものの、その具体的金額については、訴訟における認容額、事案の内容、訴訟の審理経過等一切の事情を勘案して、不法行為の加害者が負担するのが相当であると判断される金額に限り、不法行為と相当因果関係のある損害と認められるのであるから、法的評価の問題として、裁判所の裁量によって定められると解するのが相当である(民事訴訟法二四六条の適用については慰謝料と同様である。)。

そして、当裁判所は、原告が主張し、被告加藤がこれを争わないために認めたものとみなした本件事故の態様、原告の傷害の部位、程度、入通院期間、この間の治療の経緯、後遺障害の内容、程度により、原告の主張する慰謝料金三二〇万円が、原告の精神的損害を慰謝するために相当な金額であることを認める。

また、本件において、訴訟における認容額、事案の内容、訴訟の審理経過等一切の事情を勘案すると、被告加藤が負担すべき弁護士費用としては、原告の主張する金一〇〇万円をもって相当と解する。

したがって、原告の被告加藤に対する請求はすべて理由がある。

第四結論

よって、原告の請求は、主文第一項及び第二項記載の限度で理由があるからこれらの範囲で認容し(被告らの債務は、被告会社の責任の及ぶ範囲で不真正連帯債務である。)、被告会社に対するその余の請求は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六一条、六四条本文を、仮執行宣言につき同法二五九条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 永吉孝夫)

別表

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